後絶たぬ食肉スキャンダル

 私は、ドイツの街角でよく見られる、デナー・ケバブが好きである。もちろん毎日食べようとは思わないが、取材で急いでいる時などに、立ち食いで腹ごしらえをするのにぴったりだ。値段も安く、5ユーロ(750円)でお腹がいっぱいになる。マクドナルドのハンバーガーよりも、付け合せの生野菜が多いのが気に入っている。いつかベルリンで食べた、カリカリに焼いた鶏肉を使ったケバブもうまかったな・・・・。エルサレム旧市街の、バザールのように雑然としたアラブ人地区で、行き交う人の波を見ながら食べたケバブも忘れられない。イスラム文化が、社会の一部となっている、ヨーロッパらしい食べ物だ。

 それだけに、今回南ドイツを中心に、賞味期限を大幅に過ぎた食肉が、何トンも見つかった事件には、げんなりさせられる。中には、3年から4年前の肉もあったというから、食欲を減退させる。古い肉の一部は、デナー・ケバブの食堂だけでなく、他のレストランにもすでに出荷されて、お客さんが食べてしまったようである。4年前の肉でも、冷凍して食堂に持ち込まれると、店員には古い肉かどうかを判別することは非常に難しい。いわんや、そうした肉でも、焼いてしまえば客には全然わからないという。確かに我々がスーパーで肉を買う時に、目安にするのは賞味期限だけだが、その表示が偽物だったら、消費者には見分けがつかない。

 特に呆れるのは、Gammelfleisch(古びた肉)をめぐる、この種の食肉スキャンダルは今回が初めてではなく、過去にも違反した業者が何度も摘発されていることだ。まず、監督官庁にとっては、全ての冷凍倉庫やレストランの肉を点検することは、人手が足りないために、とても不可能である。

さらに食品衛生法違反事件では、有罪判決を受けても、罰金は最高2万ユーロ(300万円)。このため、業者が古びた肉を売ることによって1億円もうけたとすれば、300万円の罰金はあまり犯罪を抑止する効果を持たないのではないか。

だがドイツの消費者にとっては、毎日のように食べる肉の安全性は、極めて重要な問題である。こうしたスキャンダルが続くと、BSE騒動以来、若いドイツ人の間に見られる「肉離れ現象」に拍車がかかるかもしれない。今後は、化学飼料を使わず、特定の農家などから、健康食品の店などへ卸されている、いわゆる「Biofleisch(ビオ肉)」に対する人気が高まるだろう。

政府は、この種の犯罪に対する罰金を、大幅に引き上げて、市民が安心して肉を食べられるような環境を作ってほしいものだ。

 

筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

週刊ニュースダイジェスト 2006年9月16日